大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(う)2122号 判決

控訴人 被告人 呉明秀

弁護人 綿引光義

検察官 泉政憲

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人綿引光義及び被告人本人各作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、弁これらをここに引用し、これに対し次のとおり判断する。

護人の控訴趣意第四点について。

原判決がその認定にかかる判示事実中関税法違反の点について同法第一一〇条第一項第一号を適用していることは、所論のとおりであつて、所論は、右は、同条同項第二号を適用すべき場合であるから、原判決には、この点につき法令の適用に誤があつて、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を主張するにより、考察するに、関税法第一一〇条第一項第一号には、「詐偽その他不正の行為により関税を免かれ、又は関税の払いもどしを受けた者」と、同第二号には、「関税を納付すべき貨物について詐偽その他不正の行為により関税を納付しないで輸入した者」と、それぞれ規定してあるが、右第一号前段の詐偽その他不正の行為によつて関税を免かれるとは、詐偽その他不正の行為によつて税関をして関税の賦課決定を不能ならしめ、又は賦課決定を誤らしめる一切の場合をいい、同第二号の関税を納付すべき貨物について詐偽その他不正の行為により関税を納付しないで輸入するとは、正当に関税の賦課決定が行われた貨物を詐偽その他不正の手段によつて、関税を納付することなく輸入する場合をいうものと解すべきところ、原判決が証拠によつて確定した事実は、前示のように、被告人が税関の許可を受けずに、駐留米国軍人から、関税免除物品を日本国内において譲受け、これに対する関税を免かれたというのであるから、その所為は、右第二号の正当に関税の賦課決定が行われた貨物を、詐偽その他不正の手段により関税を納付しないで輸入した場合に当るものではなくて、右第一号前段の詐偽その他不正の行為により税関をして関税の賦課決定を不能ならしめた場合に該当することが明らかであるというべく、従つて、原判決が、その判示事実中関税法違反の点について同法第一一〇条第一項第一号を適用したことは、正当であつて、原判決には、この点につき、所論のような判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤は存在しない。論旨は採るを得ない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 鈴木良一)

綿引弁護人の控訴趣意

第四点原判決は関税法違反部分については、同法第百十条第一項第二号を適用すべきところ、同項第一号を適用した法令違背がありその誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。

(一) 昭和二十七年法第百十二号第十二条によると、「合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関、軍人用販売機関等、合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族及び契約者以外の者が、第六条の規定の適用を受けた物品の譲受を日本国内においてしようとするときは、当該譲受けを輸入とみなし、関税法及び関税定率法の規定を適用する」とあつてその譲渡行為は輸入と看做されている。而して関税法第百十条第一項第二号によると、「関税を納付すべき貨物について詐偽その他不正の行為により関税を納付しないで輸入した者」とあることから考えて関税を納付しないで判示の関税免除物品の譲渡を受けた本件については、関税法第百十条第一項第二号を適用すべきが相当である。

(二) 然るに、同項第一号の「詐偽その他不正の行為により関税を免れた場合」に擬律したのは法の適用を誤つたものというべく、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する)。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例